加工の見積もりの出し方|3つの箱に分けて考える
見積もりを勘で出している、あるいは過去の慣習のまま出しているという人は、たぶんかなり多いと思います。そして実際、それで回ります。似たような仕事を何年もやっていれば、図面を見た時点で金額の見当がつくようになります。
ただ、勘が効かない場面はあります。 初めての材質、桁が違うロット、久しぶりの形状、新規の客先。そういうときに戻れる形を持っておくと、少なくとも大きく外すことは減ります。
この記事では、受注する側が自社の原価を出す手順をまとめます。発注側が見積書を読む話ではありません。
費用は3つの箱にしか入らない
項目を並べていくと際限がないように見えますが、かかり方で分けると3つしかありません。
| 箱 | かかり方 | 入るもの |
|---|---|---|
| ① 個数で増える | 作った数だけ | 材料費・加工費・人件費・工具費 |
| ② ロットに1回 | 個数が増えても増えない | 段取り費・プログラム作成・治具 |
| ③ 外に出す | 外注先の請求どおり | 熱処理・表面処理・めっき |
この仕分けさえできれば、あとは足すだけです。 そして、見積もりで揉めるところはたいてい②に入っています。
① 個数で増えるもの
材料費
材料費 = 重量 × キロ単価
重量 = 体積 × 比重 ÷ 1,000,000
間違えやすいのは寸法です。図面の仕上がり寸法ではなく、材料として買う寸法で計算します。 φ48に仕上げる部品でも、材料はφ50を買うことが多いはずです。長さも同じで、切代とつかみ代の分が要ります。
定尺で買っている場合は、もう一段あります。1本から何個取れるかを数えて、余りをどう扱うか決める必要があります。端材を他の仕事に回せるなら乗せなくてよいですし、捨てるなら乗せることになります。
→ 寸法と比重から出すなら材料重量計算ツールが使えます。切代・つかみ代・端材の扱いは材料費の出し方に詳しく書いています。
加工費
加工費 = (機械チャージ + 変動費) × 加工時間
機械チャージは、その機械を1時間確保するのにかかる固定費です。減価償却・設置スペースの家賃・保険料・金利あたりを、年間の実稼働時間で割って出します。
ここで注意したいのは、分母が「会社が動いている時間」ではなく「機械が実際に削っている時間」だということです。段取り・メンテナンス・材料待ちはここから外れます。分母が小さくなるので、稼働率を低く見るほどチャージは高く出ます。
→ 機械チャージ計算ツールで出せます。何を含めて何を含めないかは機械チャージの計算方法に、他社の数字については機械チャージの相場はいくら?に書いています。
ここで言う機械チャージは、機械の固定費だけの数字です。人件費も工具費も含んでいません。
世の中で「加工チャージは1時間あたり4,000円くらいから」と言われるとき、その数字には人件費が含まれていることが多いので、そのままでは比べられません。何を含めて何を含めないかは会社によって違います。 自社の数字を出すときも、どちらの意味で使っているかを決めておいた方が混乱しません。
変動費は電力・切削油・消耗品です。個別に出すのが難しければ、工場全体の年間額を実稼働時間で割って按分する方法があります。金額としては大きくないことが多いので、分からなければ0のままでも全体の傾向は見えます。
人件費
人件費 = 年間の総支給額(社会保険料込み) ÷ 年間の労働時間
賞与と社会保険料の会社負担分を入れ忘れると、実態より安く出ます。 月給だけで割ると2〜3割ずれることがあります。
1人で複数台を見ているなら、その分だけ1台あたりの負担は下がります。ただ、見積もりの時点では「そのとき何台動かしているか」まで分からないことが多いと思います。分からないなら割らずに出しておけば、原価は高めに出ます。見積もりとしては安全側です。
工具費
工具費 = 工具価格 ÷ 寿命個数
刃先交換式なら、チップ1枚の価格とコーナー数で考えます。寿命はカタログの推奨条件が目安になりますが、実際の材質と条件で変わります。 社内に実績があるなら、そちらを優先した方が確かです。
② ロットに1回のもの
ここが小ロットで単価が跳ね上がる原因です。
段取り費
段取り費 = 段取り時間 × (機械チャージ + 人件費)
段取り中も機械は占有されています。 削っていないからといって機械チャージを外すと、その時間が原価から消えます。実際には、その機械は他の仕事に使えていません。
そして段取りは、個数が増えても増えません。 45分の段取りは、10個作っても1,000個作っても45分です。だから1個あたりで見ると、ロットが小さいほど重くのしかかります。
→ どのくらい効くかは小ロットで単価が高くなる理由に、機械チャージを乗せるかどうかの議論は段取り時間は原価にどう入れる?にまとめています。
プログラム作成・準備
CAD/CAMを触る時間、図面を確認する時間、治具を組む時間。これらは機械が動いていないので、機械チャージは乗りません。人件費だけです。
段取り時間と一緒にしてしまうと、機械チャージがその分だけ余計に乗ります。分けて入れた方が実態に近くなります。
繰り返しの仕事なら、プログラムは前回のものが使えるので0でかまいません。新規の部品でだけ発生する費用です。
治具・専用工具
その仕事のためだけに作った治具や、専用に手配した工具です。次の仕事でも使えるなら、1回のロットに全部乗せるのは重すぎます。 何回か使う見込みがあるなら、その回数で割って考えることになります。
③ 外に出すもの
熱処理・表面処理・めっきなどです。外注先から見積もりが来ているなら、その金額をそのまま入れます。 中身を機械チャージと人件費に分解しても意味がありません。
見るべきなのはかかり方です。1個いくらなのか、ロットいくらなのか。最低ロット料金がある場合は、小ロットで効いてきます。
そして、1個ごとの外注は「投入した数」ぶんかかります。 103個送れば103個ぶん請求されます。納品数ではありません。
忘れやすいのは検査費
検査は工程の一部なのに、原価から抜け落ちやすいところだと思います。
検査費 = 検査個数 × 検査時間 × 検査チャージ
効くのは検査個数です。全数なのか、抜き取りなのかで大きく変わります。抜き取りなら、割合を決めて個数を出します。
もうひとつが検査チャージです。ノギスで測るのと三次元測定機を使うのとでは、単価が違います。測定機を使うなら、その設備のチャージも乗ります。 検査員の人件費だけで計算すると、実態より安く出ます。
不良の見込みは「率」ではなく「個数」で
100個納めるのに5個落ちる見込みなら、105個ぶんの原価を出します。
ここでよくやってしまうのが、「1個あたり原価 ÷ (1 − 不良率)」という計算です。これをやると段取り費まで割ってしまい、原価が過大に出ます。 段取りは不良が出ても増えません。1回は1回です。
個数で入れれば、この間違いは起きません。 そして「不良率は何%ですか」より「何個余分に流しますか」の方が、測っていない人にも答えられると思います。
ここまでが原価。提示額はここから
ここまでで出るのは社内の原価であって、客への提示額ではありません。
提示額 = 原価 + 運賃・梱包費 + 販管費 + 利益
原価と提示額を混ぜてしまうと、値引き交渉が来たときにどこまで下げられるかが分からなくなります。 分けておけば、「ここから先は赤字」という線が見えます。
実際に1個ぶん通してみる
数字を入れて最後まで出してみます。
条件
| 部品 | S45C 丸棒 φ50 × 105mm から削り出し |
| 数量 | 納品100個・不良の見込み3個 → 投入103個 |
| 工程 | 旋盤 → マシニング → 熱処理(外注) → 三次元測定(抜取10%) |
材料費
体積 π × (50 ÷ 2)² × 105 = 206,167 mm³
重量 206,167 × 7.85 ÷ 1,000,000 = 1.618 kg
材料費 1.618 × 400円/kg = 647円/個
工程の条件
| 旋盤 | マシニング | |
|---|---|---|
| 機械チャージ | 1,600円/時 | 2,600円/時 |
| 変動費 | 120円/時 | 150円/時 |
| 人件費 | 2,500円/時 | 2,500円/時 |
| 加工時間 | 8分/個 | 5分/個 |
| 段取り時間 | 45分 | 60分 |
| プログラム作成 | — | 90分 |
| 工具 | 3,000円 ÷ 300個 | 12,000円 ÷ 400個 |
| 治具 | — | 15,000円(ロットに1回) |
熱処理は180円/個、三次元測定は抜取10%・6分/個・4,000円/時とします。
結果
| 区分 | 納品1個あたり | 割合 |
|---|---|---|
| 材料費 | 666円 | 30% |
| 加工費 | 1,149円 | 51% |
| 検査費 | 44円 | 2% |
| 外注費 | 185円 | 8% |
| その他(工具・治具) | 191円 | 9% |
| 合計 | 2,236円 |
ロット合計は223,643円です。
ロット数を変えると
| ロット | 納品1個あたり |
|---|---|
| 10個 | 4,600円 |
| 100個 | 2,236円 |
| 1,000個 | 1,991円 |
10個と1,000個で2倍以上違います。 中身は同じ部品で、変わったのは数量だけです。差はほぼ全部、②のロットに1回かかる費用の按分から来ています。
→ この計算は製造コスト計算ツールの「サンプルを開く」で、同じ数字がそのまま入った状態から始められます。
この数字は相場ではありません
念のため書いておくと、上の金額はすべて入力例で、相場ではありません。
そして、相場を出せないことそのものが、この分野の状態を表しているとも言えます。加工賃の相場が表に出てこないのは、他社の内訳が見えないからでもありますし、そもそも自社の原価を数字で持っていない会社が少なくないからでもあります。
冒頭に書いたとおり、勘や過去の慣習で回っている現場は多いです。それが悪いわけではありません。ただ、勘の中身を一度分解しておくと、勘が効かない場面で戻れます。
まとめ
- 費用は個数で増える/ロットに1回/外に出すの3つに仕分ける
- 段取り中も機械チャージは乗る。 ただしCAD/CAMの時間には乗らない
- 検査費は抜けやすい。 全数か抜き取りかと、測定機のチャージを見る
- 不良は率ではなく個数で入れる
- 出た数字は社内原価。提示額はここから乗せる
自分の見積もりに漏れがないか確かめるなら、製造コスト計算ツールに同じ条件を入れてみてください。手元の金額とずれたら、その差がいま見えていない費用ということになります。
抜けやすいところを個別にまとめたものが見積もりで赤字になりやすい5つの抜けです。