切削速度から回転数を出す|Dに何を入れるかで答えが変わる

公開 2026/9/10 ・ 加工・段取り ・ およそ8分で読めます

切削速度から回転数を出す式は、3行で終わります。

それでも数字が合わないことがあるのは、式が難しいからではありません。 ずれているのはたいてい、D に何を入れたかのほうです。

式は3行で終わる

回転数    N  = 1000 × Vc ÷ (π × D)     min⁻¹
切削速度  Vc = π × D × N ÷ 1000        m/min
送り速度  F  = f × N                    mm/min

1000 が入っているのは、単位を合わせるためだけです。 切削速度は m/min、直径は mm。メートルとミリを揃えているだけで、それ以上の意味はありません。

たとえば φ50 の丸棒を Vc 100 m/min で削るなら、

N = 1000 × 100 ÷ (3.14159 × 50) = 637 min⁻¹

ここまでは、どのメーカーのサイトにも同じことが書いてあります。 問題はこの先です。

⚠ D は「工具径」か「加工径」か

旋盤とフライスで、D に入れるものが違います。

D に入れるもの
旋盤ワークの径(いま削っている場所の径)
フライス・マシニング工具の径

理由は、どちらが回っているかです。旋盤はワークが回るので、削っている場所の周速を決めるのはワークの径。フライスは工具が回るので、工具の径。

式は同じでも、入れる値の意味が逆になります。

⚠ 端面は、切削速度が一定にならない

旋盤で端面を削ると、刃先が中心に向かって進みます。 回転数を固定したまま削ると、径が小さくなるぶん切削速度が落ちていきます。

さきほどの 637 min⁻¹ のまま、φ10 の位置まで削り込んだとします。

Vc = 3.14159 × 10 × 637 ÷ 1000 = 20 m/min

100 m/min のつもりが、20 m/min になっています。 中心に近づけば、切削速度は 0 に向かいます。

仕上げ面が中心付近だけ荒れるのは、これが原因のことがあります。

だから旋盤には、径に合わせて回転数を自動で上げる「定周速」の機能があります。ただし径が小さくなると回転数が跳ね上がるので、最高回転数を頭打ちにする指定とセットで使います。

指令のコードは制御装置によって違います。 ファナック系では G96 と G50 S○○ の組み合わせが一般的ですが、手元の機械の説明書で確かめてください。

★ ボールエンドミルの D は、工具径ではない

ここが一番、間違えられるところだと思います。

ボールエンドミルは先端が球です。浅く切り込んだとき、実際に削っているのは球の一番太いところではありません。

切込みが浅ければ、当たっているのは球の先端に近いところだけです。 そこの直径は、工具径よりずっと小さくなります。この直径を実効径と呼びます。

D De R ap ワークの上面 刃先の下端
切込み ap のところで球を横に切ると、その直径が De。工具径 D より小さくなる。

式は、三平方の定理だけで出ます

球の半径を R(= D ÷ 2)とします。球の中心から刃先までは、どこを測っても R です。

工具の先端は、中心の真下 R のところ。切込み ap で削っている高さは、そこから ap だけ上なので、中心からは R − ap だけ下になります。

ここで直角三角形ができます。求めたい半径を r とすると、

斜辺   R          中心から刃先まで
縦     R − ap     中心から、削っている高さまで
横     r          求めたい半径

r² + (R − ap)² = R²

r = √( R² − (R − ap)² )

中のカッコを展開します。

R² − (R − ap)²
  = R² − ( R² − 2R・ap + ap² )
  = 2R・ap − ap²
  = ap × ( 2R − ap )

ここで 2R が出てきます。半径の2倍なので、これが直径 D です。

r = √( ap × (D − ap) )

r は半径なので、2倍して直径に直します。

De = 2 × √( ap × (D − ap) )

R で始まって D で終わるのは、途中で 2R がまとまって出てくるからです。 別のものに置き換えたわけではありません。

φ6 のボールエンドミルで、切込み 0.3mm のとき。

De = 2 × √( 0.3 × (6 − 0.3) ) = 2 × √1.71 = 2.6 mm

工具径の半分以下です。

D に 6 を入れて Vc 100 m/min のつもりで回転数を出すと、

N  = 1000 × 100 ÷ (3.14159 × 6) = 5,305 min⁻¹

実際の Vc = 3.14159 × 2.6 × 5,305 ÷ 1000 = 44 m/min

100 のつもりで、44 しか出ていません。

これは幾何だけで決まる話です。 メーカーや材種によって変わる数字ではありません。仕上げの面が思ったより荒い、工具が思ったより減らないといったときは、まずここを疑うと早いことがあります。

傾斜面を削るときは、また別の値になります。 工具を傾けると、球のどこが当たるかが変わるためです。

送りは、3つの量が混ざる

送りと呼ばれているものが3つあります。 カタログの数字がどれなのかを、毎回確かめる必要があります。

記号単位何の量か
fmm/rev1回転で進む量。旋盤で使う
fzmm/刃刃1枚が削る量。フライスで使う
Fmm/min1分で進む量。機械に入れる値
旋盤     F = f × N
フライス  F = fz × z × N        z = 刃数

刃数を掛け忘れると、送りが刃数ぶんの1になります。 4枚刃なら1/4です。削れてはいるので気づきにくく、加工時間だけが伸びます。

さきほどの 5,305 min⁻¹、4枚刃、fz 0.05 mm/刃なら、

F = 0.05 × 4 × 5,305 = 1,061 mm/min

⚠ 小径工具は、そもそも切削速度が出せない

式で出た回転数を、機械が出せるとは限りません。

φ1 のエンドミルで Vc 50 m/min を出そうとすると、

N = 1000 × 50 ÷ (3.14159 × 1) = 15,915 min⁻¹

最高 8,000 min⁻¹ の機械では届きません。 8,000 で回したときの実際の切削速度は、

Vc = 3.14159 × 1 × 8,000 ÷ 1000 = 25 m/min

半分です。

小径の工具がカタログどおりに使えないのは、腕や段取りの問題ではなく、機械の最高回転数が先に頭打ちになるからであることが少なくありません。

逆に言えば、小径を多く使う仕事では、主軸の最高回転数がそのまま能力になります。 見積もりで機械を選ぶときの判断材料になります。

条件が決まると、原価が動く

回転数と送り速度が決まれば、削っている時間が決まります。時間が決まれば、時間 × 機械チャージで金額になります。

ただし、条件を上げれば原価が下がるとは限りません。 速度を上げると工具の寿命が縮み、工具費と交換の手間が増えます。どこで釣り合うかは、材料と機械と工具の組み合わせで変わります。

カタログの条件をそのまま使えない理由は、別の記事にまとめています。

カタログの切削条件をそのまま使えない理由

まとめ

式は3行。合わないときは D を疑う

旋盤        D = 削っている場所の径。端面では変わり続ける
フライス     D = 工具径
ボール       D = 実効径 2√(ap(D−ap))。工具径ではない
送り         f・fz・F の3つ。刃数の掛け忘れに注意
小径         機械の最高回転数が先に頭打ちになる

小次郎 切削工具・測定工具の販売(卸売)と、 NC旋盤・マシニングセンタでの加工。両方の実務経験があります。 運営者情報