工具の突き出しは、たわみに3乗で効く|L/D と原価の関係
切削条件は合っているはずなのに、寸法が出ない。面が荒れる。びびる。
そういうとき、条件そのものではなく工具が逃げていることが原因の場合があります。特に、深い溝を掘るときや、長いボーリングバーで中ぐりをするときです。
条件の計算は切削条件計算ツールで出せますが、その数字が正しくても、工具がたわんでいれば刃先は狙った位置にいません。
突き出しは3乗、工具径は4乗で効く
工具を「根元で固定された棒」と見ると、たわみはこの形で表せます。
たわみ δ = F・L³ / (3・E・I)
断面二次モーメント I = π・D⁴ / 64
F 切削力 L 突き出し量
E 縦弾性係数 D 工具径
大事なのはL が3乗、D が4乗で入っていることです。
「少し伸ばしただけなのに、急に暴れ出した」という経験をした人は多いと思います。少し伸ばしただけ、ではありません。3乗で効いているので、感覚より大きく変わります。
比で見ると分かりやすい
この式は切削力 F を入れないと絶対値が出ません。そして切削力は、材質・刃先の形・摩耗・切取り面積で大きく変わります。ここを詰めずに「何µm たわみます」と言っても、数字の見た目ほどの確からしさはありません。
そこで、2つの条件を比べる形にします。比を取ると F が約分されて消えるので、推定が要らなくなります。
突き出しを 3D → 4D にする たわみ 2.4倍
工具径を φ10 → φ8 にする たわみ 2.4倍
「突き出しを1.3倍にする」と「径を2割細くする」が、ほぼ同じ影響です。
逆向きにすると、こうなります。
径を 2割 太くする → たわみ 約半分
突き出しを 2割 詰める → たわみ 約半分
φ10 を φ12 にするか、突き出し30mm を24mm にするか。どちらでも、たわみはおよそ半分になります。現場で選べる手はだいたいこの2つなので、覚えておくと判断が早くなります。
同じ L/D でも、細い方がたわむ
突き出しを「径の何倍まで」で管理している現場は多いと思います。3D まで、4D まで、という言い方です。
ただし、同じ L/D なら同じだけ逃げる、ではありません。
φ20 の 4D(突き出し 80mm)と φ10 の 4D(突き出し 40mm)
→ φ10 の方が 2倍 たわむ
式に L = k・D を入れると、δ ∝ (kD)³ / D⁴ = k³ / D になります。同じ L/D なら、たわみは径に反比例します。径が半分になれば、たわみは2倍です。
小径の工具では、同じ L/D の感覚で使うと足りません。「φ20 では 4D で問題なかった」は、φ10 の根拠になりません。
超硬のバーと、鋼のバー
材質でも変わります。縦弾性係数はおおよそ次のとおりです。
| 縦弾性係数 | 同じ形状でのたわみ | |
|---|---|---|
| 超硬 | およそ 550 GPa | 0.37倍 |
| ハイス | およそ 215 GPa | 0.95倍 |
| 鋼(合金鋼) | およそ 205 GPa | 1.00倍 |
超硬は鋼のおよそ2.7倍の縦弾性係数があるので、たわみはおよそ1/3になります。深穴の中ぐりで超硬のボーリングバーが効くのは、これが理由です。
一方で、ハイスと鋼はほとんど変わりません。材質を替えて効くのは、超硬にしたときだけということになります。
なお超硬は、組成(WC と Co の割合)によって 500〜650 GPa の幅があります。細かい数字を当てにする使い方はしない方がいい部分です。
自分の条件で比べるなら工具のたわみ計算で並べられます。
たわみを避けると、原価はどう動くか
たわみへの手当てはいくつかありますが、どれも原価に跳ね返ります。
| 手当て | 原価への効き方 |
|---|---|
| 取り代を減らしてパス数を増やす | 加工時間が伸びる |
| 送りを落とす | 同じく加工時間が伸びる |
| 短い工具や治具を用意する | 段取り時間が増える |
| 超硬のバーに替える | 工具費が上がる |
このうち、金額として一番大きく効くのは加工時間です。
カタログの切削条件をそのまま使えない理由で計算していますが、同じ部品で加工時間が 8分 → 10分 になると、1個あたり 141円 上がります。一方、工具寿命が 300個 → 100個 に落ちても 21円 です。
工具代を惜しんでパス数を増やすと、取り返せない側で損をすることがあります。
そして「短い工具や治具を用意する」は、ロット数で損得が変わります。段取りに1時間かけても、1,000個なら1個あたり数円ですが、10個なら数百円です。→ 小ロットで単価が高くなる理由
どれを選ぶかは、その仕事の数量で変わるということになります。1個あたりでいくら動くかは製造コスト計算で並べて比べられます。
面粗度にも出る
たわみは寸法だけの問題ではありません。工具が逃げれば、面も荒れます。
理論上の粗さは送りと刃先R で決まりますが、計算どおりに出ないことの方が多いはずです。工具が振られている、被削材側が逃げている、びびっている。理論値より悪い側にしか外れません。
「送りを落としたのに面が良くならない」ときは、送りではなく剛性の側を疑った方が早いことがあります。突き出しを詰める、径を上げる、ワークの支持を足す。
まとめ
- たわみは突き出しの3乗、工具径の4乗で効く
- 径を2割太く ≒ 突き出しを2割詰める ≒ たわみ半分
- 同じ L/D でも、径が半分ならたわみは2倍。L/D だけでは管理しきれない
- 超硬は鋼のおよそ1/3しかたわまない。ハイスと鋼はほぼ同じ
- 手当てはすべて原価に跳ね返る。中でも加工時間が一番大きい
- 短い工具や治具を用意するかどうかは、ロット数で損得が変わる