加工時間は計算で出るのか|制御装置の推定が1割短い理由
1回の切削の時間は、無料で出ます
先に書いておくと、「1回の切削」を計算するツールを当サイトで作る予定はありません。工具メーカーが無料で公開しているものがあり、そちらの方がよくできているからです。
⚠ 「1個ぶん」を積み上げるツールは別の話です。 端面・荒・仕上げ・溝入れのように条件の違う切削をまとめて足すところは、まだどこにもありません。→ 計算ツール一覧の「これから作るもの」
| 出せるもの | |
|---|---|
| 住友電工ハードメタル 加工計算ツール(旋削加工) | 加工時間・所要動力・切削抵抗・切りくず排出量・理論面粗さなど。外径/端面/溝入れ/突切りに対応。回転速度一定と切削速度一定の両方 |
| 京セラ 切削計算機 | 加工時間(旋削・フライス・穴あけ) |
どちらも無料で、会員登録も要りません(2026年9月時点)。
式そのものも単純です。
加工時間(分) = 加工長 ÷ (主軸回転数 × 1回転あたりの送り)
回転数と送り速度は切削条件計算で出せます。問題はここから先です。
1回の切削は、1個の加工時間ではない
上の式が答えているのは、1本の切削にかかる時間です。部品1個には、それが何本も入っています。
1個の中身 端面 → 外径の荒 → 仕上げ → 溝入れ → ねじ切り → 突切り
+ 工具交換・早送り・ドウェル
+ ワークの着脱・切りくずの処理・測定
足すのを忘れやすいのは下の2行です。特に工具交換と早送りは、プログラムには入っているのに、計算する側の頭からは抜けます。→ 見積もりで抜けやすい5つ
直線でない形も、面積で出せる
無料ツールが対応しているのは、外径・端面・溝入れ・突切りです。テーパーやR形状は、そのままでは出せません。
ただし、周速一定(G96)で削っているなら、形にかかわらず1つの式で出せます。
切削時間(分) = 削った回転面の面積(mm²) ÷ (1000 × 切削速度 × 送り)
工具は周速 Vc で表面をなぞり、1回転で f だけ横にずれます。つまり1分間に Vc × f の面積をなでている、というだけの話です。
| 形 | 面積 |
|---|---|
| 外径(直線) | π × 直径 × 長さ |
| 端面 | π × (外半径² − 内半径²) |
| テーパー | π × (大径 + 小径) ÷ 2 × 斜面の長さ |
外径で検算すると、従来の式と一致します。
φ50 × 長さ100 / Vc 150 / f 0.2
従来 加工長 ÷ 送り速度 = 0.5236 分
面積 πDL ÷ (1000 × Vc × f) = 0.5236 分
同じ式の一般形なので、覚え直す必要はありません。
⚠ 主軸回転数が上限で頭打ちになると、この式は使えません
周速一定は、径が小さくなるほど回転数を上げる制御です。端面を中心まで削れば、計算上の回転数は際限なく上がります。実際には主軸にもチャックにも上限があるので、G50 S2000 のように最高回転数を決めておきます。
そこに達したら、回転数はそれ以上上がりません。以降は回転数が固定され、周速の方が落ちていきます。
上限に達する径は、式で出ます。
上限に達する径 = 1000 × Vc ÷ (π × 最高回転数)
Vc 150 / 2000min⁻¹ なら φ23.9mm
φ23.9 より外側は周速一定、内側は回転数が固定です。面積の式は「周速が一定」を前提にしているので、内側では成立しません。
外側 面積 ÷ (1000 × Vc × f)
内側 径方向の移動距離 ÷ (f × 最高回転数)
端面を中心まで削るときと、細い径を削るときは、たいていここに当たります。
⚠ 制御装置の推定は、実際より短い
ここが本題です。
多くの制御装置は加工時間の推定を出します。単体の計算機能というより、ツールパスを描く機能に含まれていることが多い形です。形状と経路を持っているので、上のような手計算より条件がよいはずです。
それでも、実際より短く出ます。
| 入っていないもの | モーターの加減速、工具交換 |
| ズレの幅 | 内容によりますが、1割ほど |
短いブロックが連続する形状や、R形状の多い部品ほど、加減速の影響が大きくなります。推定が「切削だけを送り速度で割った値」に近いほど、実際とは離れます。
これは現場で見ている範囲の話で、測定した値ではありません。機械・制御装置・プログラムの書き方で変わります。ただ、推定が実際より長く出ることはまずないという向きは、覚えておいて損がないと思います。
その1割は、いくらか
製造コスト計算のサンプル(100個・旋盤8分・マシニング5分)で、加工時間だけを長くしてみます。
| 1個あたり | 100個 | |
|---|---|---|
| 推定どおり | 2,236 円 | 223,643 円 |
| 実際が1割長い | 2,339 円(+103) | 233,945 円(+10,302) |
| 実際が2割長い | 2,442 円(+206) | 244,247 円(+20,603) |
100個で1万円です。
そしてこの部品では、加工時間が原価の 1,030円/個 を占めています。全体の46%です。
一番大きい項目に、1割の誤差が乗っている
段取り費や材料費を1円単位で詰めても、ここが1割ずれていれば意味がありません。→ 段取り時間を原価に入れる
実績は数えたもの。勘は判断でしかない
見積もりの加工時間を、過去の実績と勘で出している会社は多いと思います。ただしこの2つは、まとめて扱えません。
見積もりには優先順位があります。
① 数える 数えられるものは数える
② 計算する 数えられないものを、数えたものから計算する
③ 判断する どちらもできないときの最後の手段
加工の見積もりに置き換えると、こうなります。
| ① 数える | 実績。その機械・その材質で、実際に何分かかったかの記録 |
| ② 計算する | 実績が無いとき。切削条件から時間を出す(この記事の前半) |
| ③ 判断する | 勘。数えても計算してもいないとき |
実績が正しいのは、それが「数えたもの」だからです。制御装置の推定より当たるのは当然で、推定は②、実績は①だからです。
勘には、記録に無い弱点が3つあります
| 引き継げない | その人が辞めたら消える |
| 検証できない | 外れたときに、どこが外れたのか分からない |
| 範囲が狭い | 実績のない材質・形状・ロットでは使えない |
⚠ そして、勘が持っているのは「時間」であって「金額」ではありません
時間の感覚が当たっていても、掛けるチャージが5年前のままなら、金額は外れます。そこは勘の守備範囲の外です。
時間 実績で数えられる
単価 計算で出す ← 勘ではどうにもならない
金額 時間 × 単価
だから、やることは3つに分かれます。
- 実績を数字にして残す(①を増やす)
- 実績が無いところだけ計算で当たりをつける(②。この記事の前半)
- 時間から金額への変換は、必ず計算でやる(②。ここに勘を入れない)
条件そのものが合っているかは、カタログの切削条件をそのまま使えない理由の方にまとめています。
まとめ
- 1回の切削の時間は、工具メーカーが無料で出してくれる(住友電工・京セラ)
- 1個の加工時間は、そこに工具交換・早送り・着脱・測定を足したもの
- テーパーやRは、面積 ÷ (1000 × Vc × f) で出せる。外径では従来の式と一致する
- ⚠ 制御装置の推定は実際より短い。加減速と工具交換が入らないため、内容によるが1割ほど
- その1割は、この例で100個 10,302円。加工時間は原価の46%を占めている
- 見積もりは ①数える ②計算する ③判断する の順。実績は①、勘は③
- 勘が持っているのは時間であって、金額ではない。単価は計算でしか出ない