下請法(取適法)のやり直し・返品|費用を請求できる範囲
図面が変わって作り直しになった。検収のあとで戻ってきた。無償で手直しを頼まれた。
その費用を誰が持つのかは、2026年1月1日に施行された取適法(旧・下請法)に書かれています。
ただし、法律が決めているのは「無料でやらせてはいけない」というところまでです。いくらかかったのかを出すのは、受注側の仕事になります。
加工でよく起きる4つの場面
委託事業者(旧・親事業者)に禁止されている行為は11あります。そのうち、加工の現場で当たるのは主に4つです。
| 起きること | 当たりうる禁止行為 |
|---|---|
| 発注を取り消された。納期を延ばされて引き取ってもらえない | 受領拒否 |
| 検収のあとで戻ってきた | 返品 |
| 図面が変わって作り直しになった | 不当な給付内容の変更 |
| 手直し・追加工を無償で頼まれた | 不当なやり直し |
共通しているのは「費用を負担しないこと」
「不当な給付内容の変更及び不当なやり直し」は、条文ではこう書かれています。
中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに、
給付の内容を変更させ、又は給付を受領した後にやり直させること
公正取引委員会が公表している違反例を見ると、共通点がはっきりします。
- 完成品の納入後、瑕疵がないのに修正させ、追加費用を負担しなかった
- 十分な説明をしないまま作業させ、後日自社の都合でやり直しをさせ、変更に要した費用を負担しなかった
- 金型製造で、検査基準を一方的に変更し、無償でやり直しを求めた
「やり直しをさせたこと」ではなく、「費用を負担しなかったこと」が問題になっています。
裏を返すと、費用がいくらか分からなければ、この条文は使えません。
返品はどこまで認められるか
返品ができるのは、受注側に責めに帰すべき理由がある場合に限られます。具体的には、発注書面に明記された委託内容と違うか、瑕疵等がある場合です。
⚠ ただし、責めに帰すべき理由があっても、次のときは返品が認められません。
・発注書面に委託内容が明確に記載されていない、または検査基準が明確でない
・発注後に恣意的に検査基準を変更した
・検査を省略した、または委託事業者が検査を行わず、
かつ その検査を受注側に文書で委任していない
3つのうち2つが、発注書面と検査基準の話です。
「どこまでなら良品か」が書面にない状態で戻ってきたものは、そもそも返品の要件を満たしていない可能性があります。図面と発注書に何が書いてあるかを、先に見ておく価値があります。
期間の制限もある
| いつまで | |
|---|---|
| 直ちに発見できる瑕疵 | 受領後速やかに返品するなら問題ない |
| 直ちに発見できない瑕疵 | 受領後6か月以内 |
| 一般消費者向けで品質保証期間を定めている場合 | その期間内、かつ最長1年以内 |
6か月・1年は「直ちに発見できない瑕疵」の話で、すべての返品の期限ではありません。
なお、違法な返品にかかった費用(運賃や再梱包)を負担させることも、あわせて問題になります。
やり直しの費用に、何が入るか
請求できる範囲が決まっても、中身を分けて出せなければ金額になりません。
| 中身 | |
|---|---|
| 段取り | プログラムの修正、治具の付け直し、刃物の組み替え、初品の確認 |
| 加工時間 | 追加工そのもの |
| 材料 | 作り直しなら丸ごと。手直しなら0 |
| 検査 | やり直したものは、たいてい全数確認になる |
| 運賃・梱包 | 引き取りと再納品 |
一番落ちやすいのは段取りです。加工時間は「1個2分」と数えられますが、段取りはロットに1回しか発生しないので、見積もりから抜けます。→ 段取り時間を原価に入れる
いくらになるか
100個の部品で、旋盤の追加工を1個2分。段取りは45分。やり直したので、追加工後に全数を1分ずつ確認する——という条件で計算します。
| 金額 | |
|---|---|
| 段取り 45分 | 3,075 円 |
| 追加工 2分 × 100個 | 15,067 円 |
| 全数確認 1分 × 100個 | 6,667 円 |
| 合計 | 24,808 円(1個あたり 248 円) |
ここで、加工時間だけを見て請求すると 15,067円になります。
段取りと検査を入れた額 24,808 円
加工時間だけの額 15,067 円
─────────
差 9,742 円 ← 請求額のおよそ4割
段取りと検査で、請求額の4割です。「2分×100個ぶんだけ請求します」と言った時点で、この4割は自社が持つことになります。
手直しで済むかどうかは、9倍の差
同じ部品を材料から作り直すと、100個で 223,643円 です。
手直し(追加工) 24,808 円
作り直し(材料から) 223,643 円 ← 9倍
どちらになるかを先に確定させることが、金額の交渉より先にあります。自社の条件での金額は製造コスト計算で出せます。
言えるようにしておくこと
法律は使えますが、使うための材料は自分で持っておく必要があります。
| 発注書面をもらう | 委託内容と検査基準が書いてあるか。返品の可否がここで決まります |
| 変更は変更として残す | 「電話で言われた」だけだと、何が変わったのかを後から示せません |
| 費用を出せる状態にしておく | 機械チャージと人件費が決まっていれば、その場で計算できます |
3つ目は、機械チャージの計算と人件費(マンチャージ)を一度決めておけば足ります。やり直しを頼まれてから考え始めると、間に合いません。
2026年1月に、名前が変わりました
| 旧 | 新 |
|---|---|
| 下請法(下請代金支払遅延等防止法) | 取適法(中小受託取引適正化法) |
| 親事業者 | 委託事業者 |
| 下請事業者 | 中小受託事業者 |
| 下請代金 | 製造委託等代金 |
あわせて、従業員数による基準が新しく設けられました。製造委託等では従業員300人、役務提供委託等では100人が区分になります。資本金の基準だけで「うちは対象外」と判断していた取引が、対象に入る場合があります。
⚠ この記事でしていないこと
個別の取引が対象かどうかの判断はしていません。資本金・従業員数・取引の類型で変わるうえ、「責めに帰すべき理由」があるかどうかは事実関係で決まります。
判断に迷う場合は、公正取引委員会または中小企業庁の窓口に確認してください。相談したことを理由に不利益な扱いをすること(報復措置)も、禁止行為に含まれています。
内容は執筆時点(2026年9月)のものです。
まとめ
- 禁止されているのは、やり直しをさせることではなく、その費用を負担しないこと
- 費用を出せなければ、条文は使えない
- 返品は、発注書面に委託内容と検査基準が明確でなければ認められない
- 直ちに発見できない瑕疵の返品は受領後6か月以内(一般消費者向けで保証期間があるときは最長1年)
- やり直しの費用は、段取りと検査で4割。加工時間だけを見ると取りこぼす
- 手直しか作り直しかで、9倍変わる