S45CとSCM435の違い|見積もりで何が変わるか
図面の材質欄が S45C から SCM435 に変わったとき、見積もりの何が動くのか。
材料の単価だけを差し替えて出していると、加工の側で足りなくなることがあります。
この記事はどちらを選ぶべきかという話ではありません。 図面はもう来ています。受ける側から見て、金額のどこが変わるかをまとめます。
まず違いを1枚で
公開されている資料で、複数の出典が一致している内容だけを並べます。
| S45C | SCM435 | |
|---|---|---|
| 区分 | 機械構造用炭素鋼 | クロムモリブデン鋼 |
| 主な添加元素 | — | クロム・モリブデン |
| 調質材の引張強さ | 690N/mm²級 | 930N/mm²級 |
| 焼入れ性 | 表面寄り | 芯まで入りやすい |
| 芯まで硬さが期待できる径 | φ40程度まで | φ70程度まで |
| 価格・入手性・加工性 | こちらが有利 | 劣る |
強度で選ぶならSCM435、価格と扱いやすさならS45Cという整理になります。
⚠ 数値は目安です。 実際の値はメーカーや熱処理条件で変わります。強度計算に使う場合は、材料メーカーのミルシートや規格をご確認ください。
変わるのは4つ
見積もりの側から見ると、動くのはこの4か所です。
| どう動くか | |
|---|---|
| ① 材料費 | キロ単価が上がる |
| ② 加工費 | 切削速度を落とすことになり、加工時間が伸びる |
| ③ 工具費 | 工具寿命が短くなる |
| ④ 外注費 | 熱処理の指定が変わる |
比重はほぼ同じ(どちらも約7.85)なので、重量は変わりません。 変わるのはキロ単価の方です。
① 材料費
同じ形状なら、重量は同じです。 差はキロ単価だけです。
φ50 × 105mm の丸棒で計算すると、重量は 1.618kg。ここにキロ単価を掛けます。
| キロ単価 | 材料費 | 納品1個あたりの原価 |
|---|---|---|
| 400円/kg | 647円 | 2,236円 |
| 600円/kg | 971円 | 2,570円 |
キロ単価が1.5倍になると、この部品では原価が15%上がります。
実際の単価差は、径・数量・時期で変わります。 見積もりのたびに材料屋に確認するのが確実だと思います。
→ 重量から材料費を出すなら材料重量計算ツールへ。
② 加工費
ここが抜けやすいところです。
SCM435はS45Cより硬く、粘りもあります。同じ切削条件で削ると、工具が持ちません。 切削速度を落とすことになり、加工時間が伸びます。
旋盤の加工時間が8分から10分に伸びたとして、計算してみます。
| 旋盤の費用 | 納品1個あたりの原価 | |
|---|---|---|
| 8分/個 | 621円 | 2,236円 |
| 10分/個 | 761円 | 2,377円 |
加工時間が25%伸びると、原価が6%上がります。
材料費の差と足すと、材料と加工の両方で1割以上変わることになります。材料単価だけ差し替えて出すと、この分が落ちます。
⚠ どのくらい落とすかは、工具の材種と機械の条件で変わります。 具体的な数字は工具メーカーのカタログを見てください。→ カタログの切削条件をそのまま使えない理由
③ 工具費
工具寿命が短くなります。
ただし、金額としてはそれほど大きくないことが多いです。工具価格3,000円で寿命が300個から200個に落ちても、10円から15円になるだけです。
②の加工時間の方が、はるかに大きく効きます。 工具代を気にして切削条件を落とすと、かえって高くつくことがあります。
④ 熱処理の指定
SCM435が指定される理由の多くは、焼入れ性だと思います。
| 芯まで硬さが期待できる径 | |
|---|---|
| S45C | φ40程度まで |
| SCM435 | φ70程度まで |
太物で芯まで硬さが要る部品なら、S45Cでは仕様を満たせません。 材質の指定は、この理由で来ていることがあります。
見積もりの側では、熱処理の外注費が変わることになります。処理の種類が変われば単価も変わりますし、そもそも熱処理の指定があるかどうかで、工程が1つ増えます。
全部を足すとどうなるか
材料単価が1.5倍、加工時間が25%増、工具寿命が3分の2になったとします。
S45C 2,236円/個
SCM435 2,570円 + 加工時間の増分 + 工具費の増分
材料費だけを差し替えると2,570円ですが、加工の分が乗ると2,700円を超えます。
数字そのものより、「材料単価だけ変えて出すと足りない」というところが要点だと思います。
→ 自分の条件で確かめるなら製造コスト計算ツールで2回計算して並べてください。
材質が変わったら確認したいこと
| キロ単価 | 材料屋に確認。径と数量で変わる |
| 在庫があるか | SCM435は径によっては在庫が薄いことがある。納期に効く |
| 切削条件 | 工具メーカーのカタログ。材種ごとに推奨が違う |
| 熱処理の指定 | 図面に書いてあるか。外注の工程が増えるか |
| 調質材か生材か | 調質材(あらかじめ熱処理済み)は硬く、加工条件が変わる |
最後の「調質材か生材か」は、図面に書かれていないことがあります。 確認しておかないと、届いてから条件を組み直すことになります。
まとめ
- 比重はほぼ同じなので、重量は変わらない。変わるのはキロ単価
- 加工時間が伸びる。 ここが抜けやすい
- 工具寿命も短くなるが、金額としては加工時間の方がはるかに大きい
- SCM435が指定される理由の多くは焼入れ性(太物で芯まで硬さが要る)
- 材料単価だけ差し替えて出すと足りない
比重表と材料費の計算は材料重量計算ツールに、寸法の取り方は材料費の出し方にまとめています。
参考にした資料