エンドミルの種類と選び方|刃数と先端形状が原価のどこに出るか

公開 2026/9/10 ・ 材料・工具 ・ およそ5分で読めます

工具メーカーのカタログを開くと、同じ φ10 のエンドミルが何十種類も並んでいます。

どれが一番いいのか、という選び方はできません。 ほとんどの違いが交換条件になっているからです。

エンドミルに「いい工具」は無い

先に一覧にします。 どれも、片方を取れば片方を失う関係です。

何を選ぶか得るもの⚠ 捨てるもの
刃数を増やす1回転あたりの送りが増える。芯が太くなり剛性が上がる切りくずの逃げ場が狭くなる
刃先を鋭くする切れ味。切削抵抗が下がる刃先が弱くなる。欠けやすい
角にRを付ける角が欠けにくいピン角が削れない
超硬にする硬い。熱に強い。たわみにくい粘りが無い。欠けやすい
ねじれ角を大きくする切れ味が良く、面がきれいワークを上に引き上げる力が増える

つまり「この加工で何を捨てるか」を決めるのが、工具の選定です。

では何を基準に捨てるものを決めるのか。 記事の最後で、そこを金額に直します。

刃数 — どちらに振るかは、加工の形で決まる

刃数は送り速度に直接効きます。

F = fz × z × N

  fz  1刃あたりの送り(mm/刃)
  z   刃数
  N   回転数(min⁻¹)

同じ fz、同じ回転数なら、4枚刃は2枚刃の2倍の送りで進めます。 加工時間がそのまま半分になる計算です。

⚠ ただし、これは切りくずが逃げられる場合の話です。

溝を削るときは、逆になることがあります

溝切削は、工具の幅いっぱいで削ります。 切りくずの逃げ場が、刃と刃のあいだの溝(チップポケット)しかありません。

刃数を増やすと、このポケットが狭くなります。

2枚刃   ポケットが広い。切りくずが出ていける
4枚刃   ポケットが狭い。溝では詰まる

詰まった切りくずは、もう一度削られます。 熱を持ち、刃先が傷み、最悪は工具が折れます。

送りを上げられるはずの4枚刃が、溝では2枚刃より遅いということが起こります。

加工切りくずの逃げ場向く刃数
溝・深い切込みポケットだけ少ない
側面の浅い切込み・輪郭横が開いている多くてよい

アルミは特にこの影響が出ます。 切りくずが長く伸びて絡むので、2枚刃や3枚刃が使われます。

⚠ センターカットでも、真下には突っ込みにくい

底刃が中心まで来ている工具を、センターカットと呼びます。 中心に刃が無い工具で軸方向に押し込むと、中心部が削れずに押し付けるだけになり、折れます。

ただし、中心に刃があれば穴あけのように使える、という意味ではありません。

理由は2つあります。

① 中心付近は、切削速度がほぼ 0 です。

切削速度は径で決まります。中心は径が 0 なので、どれだけ回しても切れません。押し付けているのに近い状態になります。

切削速度から回転数を出す

② 切りくずの逃げ道がありません。 真下に入れると、削った切りくずは工具の脇を上がるしかありません。

そのため、現場ではヘリカル(らせん)や傾斜での進入が基本になります。斜めに入れば、常に横が開いた状態で削れます。

進入の仕方を変えると、プログラムの手間が増えます。 これは切削時間ではなく段取り側の時間として出ます。

先端の形 — 角が最初に欠ける

特徴⚠ 交換条件
スクエア底が平ら。ピン角が削れる角が90度で最も弱い。欠けやすい
ラジアス角にRが付いている。欠けにくいピン角が残せない
ボール先端が球。曲面が削れる平面の能率が悪い

荒取りでラジアスが主力なのは、角が持つからです。 スクエアの角は2方向から同時に力と熱を受けるので、工具の中で最初に傷みます。

ボールエンドミルは、実際に削っている径が工具径ではありません。 切込みが浅いほど小さくなります。回転数を工具径で計算すると、切削速度が大きく足りません。

切削速度から回転数を出す

ハイスか超硬か — 上位互換ではない

超硬が常に良いわけではありません。

超硬   硬い・熱に強い・たわみにくい  ←→ ⚠ 粘りが無い。欠けやすい
ハイス 粘る。欠けにくい・安い        ←→ ⚠ 熱に弱い。速度を上げられない

超硬は、機械と保持がしっかりしていることが前提です。 断続切削、びびり、剛性の低い機械、突き出しの長い状態では、硬さがそのまま欠けやすさとして出ます。

古い汎用機でハイスが残っているのは、買い替えていないからではなく、そのほうが持つという場合があります。

たわみと突き出しの関係は、別の記事にまとめています。

工具のたわみと突き出し量

★ 交換条件を、金額で決める

ここまで全部「場合による」で終わっています。 判断する物差しが要ります。

工具は、1本の値段では比べられません。1個あたりいくらかに直します。

工具費/個 = 工具の単価 ÷ 寿命の間に削れる個数

仮の数字で並べてみます。 機械チャージ 3,000円/時(=50円/分)とします。

ハイス超硬
工具の単価3,000円9,000円
寿命200個800個
工具費/個15円11円
1個の加工時間10分4分
加工費/個500円200円
合計515円211円

この数字は仮の例で、相場ではありません。 材料と形状と機械で変わります。

見てほしいのは内訳の比です。 工具費の差は4円しかありませんが、加工時間の差が300円あります。

工具が3倍高いことは、この比較ではほとんど問題になっていません。

「高い工具を避ける」という判断は、たいてい損をします。 動いているのは工具費ではなく、加工時間 × 機械チャージのほうだからです。

⚠ ただし、専用工具は話が別です

上の計算が成り立つのは、次の仕事でも使う汎用の工具だからです。

その仕事のためだけに買った特殊径や総形の工具は、そのロットで割ることになります。

総形工具 40,000円 ÷ ロット10個 = 4,000円/個

部品そのものより高くなることがあります。 小ロットで工具費が効いてくるのは、この形のときです。

見積もりでは、汎用工具と専用工具を分けて扱う必要があります。 前者は寿命個数で割り、後者はロット数で割ります。

まとめ

エンドミルに「いい工具」は無い
  → この加工で何を捨てるかを決める

刃数     送りは増える ←→ 切りくずが詰まる
         ⚠ 溝では刃数が少ない方が速いことがある
底刃     センターカットでも、真下には入れにくい
         中心は切削速度が0。ヘリカルか傾斜で入る
先端     角が最初に欠ける。ラジアスは角を守る代わりにピン角を捨てる
材質     超硬は上位互換ではない。欠けやすさと引き換え

決め方   工具費/個 と 加工時間 × 機械チャージ を並べる
         ⚠ たいてい加工時間のほうが大きく動く
         ⚠ 専用工具だけは、ロット数で割る

小次郎 切削工具・測定工具の販売(卸売)と、 NC旋盤・マシニングセンタでの加工。両方の実務経験があります。 運営者情報